『CRCと臨床試験のあり方を考える会議』(略称:CRCあり方会議)は、その名のとおり、わが国における「臨床試験のあり方」を臨床研究コーディネーター(CRC)と一緒に考える会議です。「CRC」と「臨床試験」の間にある「と」には二つの意味、英語の「and」と「with」、があります。本会議が始まった2001年当時は「and」が主体でした。しかし、その後CRCが順調に育ち、日本臨床薬理学会認定CRCの数も増えてきましたので、「and」から「with」に比重を移して、わが国における「臨床試験のあり方」をCRCと一緒に考えていこうという会議に発展しています。 最善の治療を望んで医療機関を訪れる患者さんの協力を得て、信頼性の高いエビデンスを求めて、客観的かつ信頼のできるデータを得ることが、治験を含む臨床試験の場では求められます。このような臨床試験の現場における被験者からデータを得るプロセスの中で、患者さんとデータの両方が見える立場にいるのは、臨床試験を実施する医師とCRCです。そのCRCが主体となって、医師を含む臨床試験担当者、それを支える医療スタッフ、医薬品・医療機器の開発関係者、患者さんたち、行政サイドで働くスタッフからなる広い意味での「創薬育薬医療チーム」のメンバーが一堂に会して、医療の最終受益者である国民のためになる質の高い臨床試験を育てていこうとする会議です。
わが国におけるCRCの本格的な研修は、1998年に始まりました。医薬品開発の国際的なハーモナイゼーションの動向の中で、1997年にGCPが改定されて新GCPとして法制化されました。その際に治験の実施方法が劇的に変わったことから、また、臨床研究の中で治験の部分だけが法制化されたこともあって、その普及定着へ向けて当時の厚生省で「新GCP普及定着総合研究班」(主任研究者:中野重行)が組織されました。この研究班の6つの作業班の一つに「治験支援スタッフ養成策検討作業班」(班長:井部俊子)が組まれ、この班でCRCの養成に関する基本構想が議論されました。当時は治験への対応が当座の懸案事項であったため、「治験コーディネーター」という名称を用いてCRCの養成が始まったわけです。その後CRCは、臨床研究を支援するという本来の役割を果たすために、「臨床研究コーディネーター」として発展を続けています。
CRCの主たる役割は、試験担当医師の支援だけでなく、得られたデータの質の管理(モニタリング)と質の保証(監査)の支援、被験者となる患者のケア、およびコーディネーションを行うことです。日本文化の特徴とされる縦社会の中で、縦糸に横糸を渡すようなコーディネーションをしながら、臨床試験が円滑に進むために日々活動しています。
2001年4月に、CRC養成研修会を行ってきた各団体と関連団体の合意に基づいて、「CRC連絡協議会」が結成されました。同じ年の秋に、バックグラウンドは異なっていても共通の話し合いの場が必要だとの共通認識の下に「CRCあり方会議」を開催することになり、第1回会議が別府で開催されました。第1回会議の参加者は約800名でしたが、その後年々増加し、現在では参加者が3000~4000人規模の会議に発展しています。 「CRC連絡協議会」を構成してきたメンバーは、日本臨床薬理学会、日本看護協会、日本病院薬剤師会、日本臨床衛生検査技師会、日本薬剤師研修センター、日本製薬工業協会、日本SMO協会、日本CRO協会でした。「CRCあり方会議」の開催を始めた当初は、「CRC連絡協議会」の構成団体の持ち回りで共催してきましたが、10年余りの間にCRCが育ってきたこともあり、2012年の第12回会議から、本会議の会議代表をCRCが務めることになりました。それに伴い、会議代表となるCRCを支援するために「臨床試験支援財団」が設立され、「CRC連絡協議会」の全構成団体の合意の下に、2012年度以降は本会議を「臨床試験支援財団」が主催し、それまで「CRC連絡協議会」を構成していた各団体と共催して運営しています。
この度、「CRCあり方会議」のホームページを立ち上げることになりました。第1回会議から現在までの会議の貴重な記録を保管することにしました。これから継続して運営していきますので、有効に活用していただけると有難いと思います。
「CRCあり方会議」は、毎年1回、秋季に開催します。医薬品だけでなく医療機器の開発に携わっておられる方々や、臨床試験だけでなく臨床研究に関わっておられる幅広い領域の方々にもご参加いただきたいと思います。参加してCRCと意見交換をしながら、皆さんが一緒になって協働して、真に国民の健康に役立つ臨床試験を志向して、「CRCあり方会議」を育てていただきたいと、心より願っております。
2014年12月1日
一般財団法人 臨床試験支援財団